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東京地方裁判所 平成3年(モ)13838号 決定 1992年1月30日

債権者 山下巖

右訴訟代理人弁護士 小坂重吉

同 山﨑克之

債務者 有限会社 パルティー

右代表者代表取締役 伊東力

右訴訟代理人弁護士 山浦善樹

主文

一  右当事者間の東京地方裁判所平成三年(ヨ)第六八二号仮処分命令申立事件について、同裁判所が同年七月一〇日にした仮処分決定を次のとおり変更する。

債務者は、別紙物件目録記載の建物部分を、次の日時においてカラオケスタジオとして使用してはならない。

(一)  国民の祝日及び毎週日曜日は、午前一時から午前四時までの間

(二)  右(一)以外の日は、午前〇時から午前四時までの間

二  訴訟費用はこれを五分し、その一を債権者の、その余を債務者の負担とする。

理由

第一主要な争点等

一  事案の概要

1  当事者

別紙物件目録「(一棟の建物の表示)」欄記載の建物(本件マンション)は、建物の区分所有等に関する法律(法)所定のいわゆる区分所有建物である。

債権者は、本件マンションの六階六〇二号室に居住している本件マンションの管理組合の理事長で、法二五条の管理者である。

債務者は、同目録「(専有部分の表示)」欄記載の建物部分(本件建物部分)の賃借人で、同所に一二個の個室を設けていわゆるカラオケスタジオ「フォルテシモ」(本件スタジオ)を営んでいる。

2  原決定

東京地方裁判所は、主文第一項記載の原決定において、債権者の本件仮処分命令申立てを相当と認め、「債務者は、本件建物部分を午前〇時から午前四時までの間カラオケスタジオとして使用してはならない。」との決定(債権者の平成三年七月三日付け「申立の趣旨変更申立書」における申立ての趣旨と同内容の債務者に不作為を命ずる仮の地位を定める仮処分命令)をした。

二  申立て及び争点

1  債権者の申立て及び主張の要旨

原決定の認可を求める。

<当事者適格・被保全権利等>

本件申立てはいわゆる団体的権利に基づくもので、債権者は本件マンション管理組合の管理者として、以下の①ないし③のいずれかを選択的な根拠として本件申立てを提起・追行している。

① 債務者による本件スタジオ営業(使用)は、法三〇条に基づく本件マンションの管理規約九条二項によって禁止されている「風俗営業に類する営業」であり、管理者である債権者は、法二六条四項により規約又は集会の決議に基づいてその職務に関する訴えの提起等を行い得るところ、規約八〇条一項、三〇条では管理者が違反行為の是正等のため必要な勧告・指示・警告を行うことができ、更に相当期間経過しても是正されないときは規約八一条一項で管理者が集会決議に基づく訴訟追行権を有するとされており、平成三年一月六日の集会(管理組合臨時総会)の決議によって本件申立てについての追行権を授権されているので、債権者は管理者として本件申立てを行える。

② 債務者の本件スタジオ営業は、本件建物部分の不当使用あるいはニューサンス、すなわち規約六〇条一項に定める専有部分の賃借人による「共同の利益に反する行為」であり、集会の決議をもってその停止を求めることができるとされているところ、債務者は本件決議による本件スタジオの使用禁止の決議に違反したので、管理者である債権者は規約八一条一項に基づく訴訟追行権を有する。

③ 債務者の本件スタジオ営業は、右①のように風俗営業に類する営業で、本件マンションの住人ら(区分所有者ら)に次に記載する被害を与えている法六条一項所定の「共同の利益に反する行為」であり、法五七条に基づいてその行為の停止等の訴訟を提起できるところ、本件決議により管理者である債権者は本件申立てをすることができる。

<被害>

本件マンションの住人らは、本件スタジオの営業が深夜まで行われることにより、カラオケ機器からの重低音の振動音、客の嬌声・大声・笑声、来店客の自動車の駐発車音・ドアの開閉音といった騒音のほか、不特定多数の者の本件マンション出入口付近の徘徊、華々しいネオン、違法な路上駐車、換気扇からの悪臭、汚濁水の浄化槽の処理能力を超過するし尿、冷暖房屋外機からの風・熱などにより、睡眠が妨害され、風紀・環境・治安状態が悪化し共同生活の秩序が維持できなくなる。

2  債務者の申立て及び主張の要旨

原決定の取消しを求める。

債権者の主張は否認し又は争う。本件マンションの住人らに受忍限度を超える被害は生じておらず、原決定のような仮処分命令の必要性はない。

原決定によって本件スタジオの使用ができなくなった時間帯は、債務者の営業にとって最も重要な時間帯であり、原決定によって債務者は倒産の危機に瀕している。

3  争点

右のように、債権者の当事者適格、被保全権利及び保全の必要性が争点となる。

第二当裁判所の判断

一  はじめに

債権者は、本件申立てがいわゆる団体的権利に基づくものであるとし、前記第一の二1①ないし③の根拠を選択的に挙げている。

右③の主張について検討するに、まず、後記五4及び6認定のとおり、管理組合は、平成三年一月六日の臨時総会において本件建物部分をカラオケスタジオとして使用することは規約違反であるとして「法廷闘争」を行うこと及び「弁護士の選定等」を理事会に一任することを内容とする本件決議をしたこと、債権者及びその他の理事全員を含む本件マンションの住人らは同年二月一五日に本件仮処分命令申立てをしたが債権者以外の者は同年七月三日にその申立てを取り下げたことが認められる。そして、規約六〇条一項(8)の趣旨は法六条一項と同様に共同の利益に反する行為を禁止しているものであり、本件決議では、債務者の右使用がこれに違反するとして「法廷闘争」すなわち訴訟の提起を行うとされており、また、規約八一条一項(1)は「管理者は、集会の決議を経て、共同の利益に反する行為の停止等の請求(法五七条)の訴訟追行権を行使することができる」旨定められていることからすれば、本件決議において管理者たる債権者に本件仮処分命令申立ての追行権を授権した(法五七条三項は事前の包括的授権を認めていないが、本件マンションの住人らは、右規約八一条一項(1)の規定により債権者が管理者として訴訟追行すること又は区分所有者である住人ら自ら訴訟追行することを前提として、本件決議をした。)ものということができ、債権者の本件仮処分命令の申立ては本件決議の授権に基づくもので適法というべきである(《証拠判断省略》)。

ところで、右③の主張は、債務者の本件スタジオ営業が法六条一項所定の共同の利益に反する行為に該当することを前提とするところ、共同の利益に反する行為といえるか否かは、結局債務者の本件スタジオの営業により本件マンションの住人らが被っている被害の有無及び程度等によって決せられ、また、本件仮処分命令申立ては、民事保全法二三条二項に定める仮の地位を定める仮処分命令を求めるものであって、この仮処分命令は「争いのある権利関係について、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる」ところ、仮処分命令による債務者の本件スタジオの使用禁止は、右被害が受忍限度を超えている場合に認められるものである。そして、右共同の利益及び受忍限度を判断するに当たっては、本件マンションの存する地域の状況、本件マンションの利用状況、債務者の本件スタジオの営業状況、当事者間の交渉経過等をも総合考慮すべきであると考えられる。

よって、以下にこれらの点について検討する(以下二ないし六における一応の認定事実は、《証拠省略》による。)。なお、債権者の右①の主張については本件スタジオ営業が風俗営業に類似する行為であるとすることには疑問があり、右②の主張も規約違反をいうものの、結局右③と同様に共同の利益に反するか否かを問題とするものである。

二  地域の状況等

1  本件マンションは甲州街道(国道二〇号線)に面しており、更にその北側には京王帝都井の頭線高井戸駅が、南側には首都高速四号線(高架)と更にその南側に同京王線芦花公園駅が存する。甲州街道は、深夜でも一分間に三〇台前後の交通量があり、自動車交通騒音等による夜間の騒音レベルは中央値で六八ないし七〇ホン(上端値では七八ないし八〇ホン、下端値では五五ないし五九ホン)程度である。

2  本件マンションの存する世田谷区南烏山三丁目地区は、その大部分が都市計画法上の用途地域を住居地域と指定されているが、本件マンションと芦花公園駅の中間部には近隣商業地域とされている部分があり、また、近辺の地区(南烏山一・二丁目、上高井戸一丁目、北烏山一・三丁目等)は、第一種又は第二種の住居専用地域とされている。

3  芦花公園駅から前記近隣商業地域と指定されている部分までの間には、コンビニエンスストア及びレンタルビデオ店等の商店のほか、十数軒の飲食店が存するが、それより北側から本件マンションまでの間には、数軒の飲食店及び二四時間営業のコインランドリーがあるほかは、個人用住居及び集合住宅となっている。

三  本件マンションの利用状況等

1  本件マンションは、昭和五三年九月ころに建築された九階建てのいわゆる分譲マンションで、本件スタジオの存する一階部分は、建築確認及び不動産登記上は「種類」が「駐車場」とされているが、規約上は「店舗」とされており、二階ないし九階は二八の専有部分に分かれた「居宅」となっている。

2  そして、右二階ないし九階は、債権者ほかが住居として利用している。他方、右一階部分は、株式会社佐伯自動車商会が所有しているが、平成二年一一月一五日ころ、債務者が所有者の株式会社佐伯自動車商会から借り受け、後記四のようにして本件スタジオを営業している。

四  本件スタジオの営業状況等

1  債務者は、本件マンションの一階部分のうち、甲州街道に面した本件建物部分(約四〇坪)に大小一二個の個室を設け、騒音が外部に漏れないようにするための防音工事を施した上、各室にカラオケの機器、テーブル、椅子等を置き、喫茶室・厨房・更衣室(約二〇坪)を付設して、これを平成三年一月一六日ころから「カラオケスタジオ」として来店客の利用に供して営業しており、同年五月二二日ころからは各室のウーハーのスイッチを切って重低音の発生を防止するようにしている。

2  また、本件スタジオ入口外には、①甲州街道から見て正面側に「カラオケ BOX」と、②甲州街道から見て横側に「カラオケスタジオ・カラオケ/レストラン フォルテシモ」と記載された電光看板が設置されていたが、このうち②は債務者がその後撤去している。なお、債務者は、本件建物部分の奥の方を債務者の従来からの営業であるテレビゲーム用ソフトウェアの開発室(約一〇坪)及び本社事務室(約二〇坪)として利用している。

3  本件スタジオの営業時間は、原決定前は午前一一時ころから翌日午前三時ころまでとされていたが、来店客は夜間に多く、特に土曜日等休日の前日は遅い時間帯(翌日の休日の午前三時ころまで)の利用が多かった。原決定は、午前〇時以降の営業を禁止したが、債務者はこれを遵守し、原決定後の午前〇時以降の本件スタジオ営業はされていない。

4  本件スタジオの顧客の多くは「会員」であり、一回当たりの支払金額(一人当たり単価)は、約二三〇〇円である。

5  債務者は、本件スタジオの開設のための本件建物部分の賃借、カラオケ機器の設置等に七〇〇〇万円を超える多額の資金を投入したが、原決定後は、従前と比して一か月当たり二五〇万円程度の減収となっている。

五  交渉経過等

1  平成二年一二月初めころ、本件建物部分をカラオケスタジオとするための改修工事が開始されたが、同月中旬ころになって債権者ほかの本件マンションの住人らが本件建物部分にカラオケスタジオが設けられることを知り、本件建物部分の債権者への賃貸人株式会社佐伯自動車商会の代表者で、かつ、当時の本件マンションの管理組合の理事長であった佐伯久吉(佐伯)に説明を求めた。

2  債権者ほかの本件マンションの住人ら有志は、佐伯のした説明に納得せず、同月下旬ころ、債務者及び佐伯に対し、カラオケスタジオの設置は規約違反であるとして警告及び改装工事の中止を求める文書を送付した。

3  しかし、債務者は本件スタジオ設置のための改修工事を続行し、また、佐伯はそのころ管理組合の理事長を辞任した。

4  本件マンションの管理組合は、平成三年一月六日に臨時総会を開き、債権者を理事長(管理者)に選任し、かつ、本件建物部分をカラオケスタジオとして使用することは規約違反であるとしてこれを禁止すること及び「法廷闘争」を行うこと及び「弁護士の選定等」を理事会に一任すること等を内容とする本件決議をした。

5  債務者は、同月一六日ころ、本件スタジオの営業を開始した。

6  債権者ほか三六名(本件マンションの住人らで管理組合の理事全員を含む。)は、同年二月一五日に本件仮処分命令申立てをしたが、原決定直前の同年七月三日に債権者以外の者はその申立てを取り下げた。

7  なお、債務者は、本件の審尋において債権者ほかの本体マンションの住人らに迷惑をかけないように最大限の努力をすることを誓約し、かつ、前記四及び後記六1のように、原決定を遵守し、また、改善措置の一部を既に実施している。

六  被害の有無及び程度等

1  騒音関係

(一) 本件スタジオの来店客は、本件スタジオ入店の前後、本件マンションの周辺で嬌声・大声・笑声を発することがあり、また、本件マンション南側の駐車場に自動車を駐車して、大きな駐発車音を発生させることがあった(ただし、右のような人の声及び自動車の駐発車音の全てが本件スタジオの来店者によるものと認めるに足りる疎明はない。)。

(二) これらの騒音は、本件マンションの住人らの睡眠・休息の障害となっている。

(三) もっとも、債務者は、平成三年三月二九日ころ、本件マンション南側の債務者用駐車場四台分全部の夜間使用を止め、これによって同所における来店客の自動車の駐発車音は解消されている。

なお、右認定の点に関し、丙四〇には、嬌声・大声・笑声及び駐発車音が、本件スタジオの来店者によるものではない旨の記載があるが、この記載をもって本件スタジオの来店者が右のような騒音を全く発生させていないものとすることはできない。また、前記一認定のとおり、本件マンションは甲州街道に面しており、通行自動車の交通騒音等による暗騒音レベルは相当高いが、右(一)認定の人声及び自動車の駐発車音は間欠的であって、定常的な自動車走行音とは異質であり、右程度の暗騒音レベルの下では睡眠・休息の妨害になる騒音と考えられる。

また、債権者は、騒音被害として、本件スタジオから騒音(重低音)が漏れてくることも挙げている。しかし、これを認めるに足りる疎明がなく、かえって前記四認定の事実によれば、現状では午後一一時以降に重低音の発生自体存しないものと考えられる(本件マンションの住人らは、債務者からの騒音測定の申し入れに応じておらず、騒音状況に関する債権者の疎明は報告書だけである。これらの報告書中、甲一六の1には、本件マンション二階二〇三号室居住者(妻)の「慢性腎炎を患っていて休養が最も大切だが、平成二年一二月初め以来の本件スタジオの工事騒音で休みの日も睡眠が取れず、イライラした状態におかれたため体調を崩し、同月二六日未明には激しい頭痛と吐き気に襲われ、救急車で病院に運ばれた。本件スタジオ開店後は、深夜三時過ぎまで、駐車場に出入りする車の騒音と声高に騒ぐ人の声で、眠れなかったり、目を覚ますことも多く、睡眠不足の毎日が続いている」旨、甲二二(平成三年二月二二日作成)には、同室居住者(夫)の「この一週間ほどは、下から突き上げて来るカラオケの音も頻繁に開こえる」旨、甲四二には、同五階五〇四号室居住者の「夜一一時三〇分又は一二時過ぎからの重低音、午後三時から七時過ぎまで、ボリーム一杯に出しているようでうるさかった」旨、甲四七には債権者の「カラオケスタジオ機器から生ずる重低音による振動音が、コンクリート駆体を通じて聞こえ、二階各室では、寝ている頭に響くため不眠に悩まされている訴えが債権者に寄せられており、特に真上の二〇三号室では奥様が従来からの病気が悪化して入院した」旨の各記載がある。しかし、これらの各記載は、いずれも抽象的・概括的なものである上、甲一六の1は工事騒音と駐車場等本件スタジオ外部の騒音について述べるもの、甲二二は一時期の騒音について述べるもので、仮にそのような騒音があったとしても前記四のとおりの改善がされているものと考えられ、甲四七は、右甲一六の1及び甲二二の作成者からの伝聞に過ぎないものである。また、甲四二の前記記載は、信用できない。)。

2  その他の環境関係

(一) 前記三のように、本件マンションは、二階ないし九階は専ら居住用として建築され、また、一階部分は建築確認等において「駐車場」とされており、本件スタジオのような娯楽施設としての営業に使用されることは予定されていなかった。

(二) 前記四のように、本件スタジオは「会員制」を採用しているが、「会員」となる来店客は不特定多数の者であり、これらの者が深夜本件マンションの周辺を徘徊することがある。

(三) 本件スタジオの営業により、(一)を前提として設置されている浄化槽の処理能力を超えるのではないかとの懸念のほか、調理による換気扇からの臭気、冷暖房屋外機からの風・熱等が生じ、また、本件スタジオ入口に設置された電光看板は本件マンションの外観を損なっている。

(四) もっとも、前記四のように右電光看板の一部は既に撤去されており、また、換気扇からの臭気の問題についても債務者は設置箇所の変更等による改善策を提示している。

七  判断

睡眠・休息は人間生活にとって不可欠であることはいうまでもなく、その睡眠・休息の場である住居における平穏な生活状態は最大限尊重されなければならない。他方、店舗等の営業あるいはこれによる経済的利益も保護されるべきではあるが、前記一のとおり、区分所有建物においては、そのうち大部分が居住用に充てられ店舗としての利用が一部分に限定されていて、その営業の種類・態様等によって居住用部分の住人らの平穏な生活が脅かされるような場合には共同の利益に反する行為となり、更にそれが受忍限度を超えるときは、仮処分命令によってその営業の全部又は一部が禁止されることがあるというべきである。

本件においては、前記二ないし六認定のように、本件マンションは、甲州街道に面していてもともと閑静な住居とまではいえないものの、住居地域に位置する主として居住用の建物であり、実際に債権者ほか多数の者が居住しているのであって、本件スタジオのように、住居とは異質な娯楽施設で公共性が乏しく、不特定多数の者が出入り可能な店舗の営業が本件マンションの一階部分で深夜にわたって行われることは、本件マンションの住人らの享受してきた従前の居住環境の変化、風紀及び治安状態の悪化をもたらし、睡眠・休息を妨げて平穏な生活を阻害するものであり、これが無限定に行われるときは区分所有者の共同の利益に反する行為となり、かつ、受忍限定を超えるものというべきである。

ところで、原決定は、曜日等を問わず一律に深夜午前〇時から午前四時までの間の営業を禁止したものである。しかし、右時間帯の営業は、債務者にとって売上の大きな部分を占める重要なものであり、特に休日の前日から翌日にかけての時間は来店客が多く、これらの日についても他の日と全く同様に営業を午前〇時以降禁止することは、債務者に与える打撃がきわめて大きく酷である。また、本件においては、住人らの平穏な生活を阻害しているのは本件スタジオからのいわゆるカラオケ騒音ではない上、債務者は、睡眠・休息の妨害となるような自動車の駐発車音の防止のため来店客の駐車場の位置を変更するなど、住人らの平穏な生活を維持するための改善措置を一部実施し、更に最大限の努力を誓約し、原決定を遵守している。これらのことからすれば、休日の営業に限って原決定の禁止時間を一時間短縮すること、すなわち、休日の前日から継続している本件スタジオの営業使用を他の日より一時間延長することとしても、住人らに受忍限度を超える被害を与えるものとはいえないと考えられ、右の限度で原決定を変更するのが相当である。

なお、債務者のいう倒産の危機が右程度の変更によっては解消できないとしても、それは債務者あるいは佐伯の地域状況や本件マンションの利用状況等についての事前の認識・検討・配慮の不十分さ、あるいは債権者のほかの住人らに対する説明の不十分さ等に基因するものであり、これによる損失を債権者ほかの住人らに転嫁することはできないというべきである。

よって、右のとおり原決定を変更することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 笠井勝彦)

<以下省略>

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